脳の地図を書き換える: 神経科学の冒険

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脳の地図を書き換える: 神経科学の冒険
Livewired: The Inside Story of the Ever-Changing Brain

デイヴィッド・イーグルマン(著), 梶山あゆみ(翻訳)
早川書房 (2022/5/24)

デイヴィッド・イーグルマン David Eagleman
1971年生まれ。スタンフォード大学で「脳の可塑性」講座を教える神経科学者。エミー賞にノミネートされたテレビシリーズ「The Brain」の生みの親で同番組のプレゼンターも務めたほか、非侵襲的なブレイン・マシン・インターフェースを開発するネオセンソリー社のCEOでもある。これまで7冊の著書を上梓し、なかでも『あなたの知らない脳――意識は傍観者である』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)は世界的なベストセラーとなっている。カリフォルニア州パロアルト在住。

梶山あゆみ かじやま・あゆみ
翻訳家。東京都立大学人文学部英文学科卒。訳書にウィンチェスター『精密への果てなき道』(早川書房)、アクティピス『がんは裏切る細胞である』、ハラリほか『漫画 サピエンス全史 文明の正体編』、シンクレア&ラプラント『LIFESPAN』など多数。

脳細胞は、汎用的で、そこにどんな感覚がつながるかで、機能が決まり、さらにそれは動的に変わることがわかりました。

生まれながらに、脳が半分しかなくても、感覚器官が一部なくても、適応して生きていけるというのはすごいことです。

生体工学の発展に伴い、わたしたちの脳はさらに適応していきます。

ワイヤリングの特徴として挙げられていたのは、以下の7点です。

  1. 世界を反映する
  2. 入力情報を受け入れる
  3. どんな装置でも動かす
  4. 大事なことを保持する
  5. 安定した情報を閉じこめる
  6. 競うか死ぬか
  7. 情報を求める

ライブワイヤード

■可塑性とライブワイヤード

脳は外部の出来事によって変化させられ、
その新しい形を維持できるシステムである。

このことから、
アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズは
「可塑性(plasticity)」という新しい用語を生み出した。

神経科学ではこの性質を
「脳の可塑性」(神経可塑性とも)と呼ぶが、
本書ではこの用語を乱発しすぎないようにしていきたい。

「可塑性」という言葉は、
一度何かを形づくったらその形を永遠に維持するところに
その主眼があるかに思える。

脳はそうではない。持ち主の生涯が終わるまで
自らを改造し続ける。

本書で私たちが目指すのは、
生きているシステムがどのようにして働いているかを
解き明かすことである。

その点をより的確に表現するために、
私は「ライブワイヤード(livewired)」という言葉を
新たにつくろうと思う。

これから見ていくように、
脳がハードウェアとソフトウェアに分けられると
考えることはもうできなくなっている。

脳の地図を書き換える: 神経科学の冒険

この前、脳についてとりあげたのは、
『脳は世界をどう見ているのか: 知能の謎を解く「1000の脳」理論』

この原著の『A Thousand Brains: A New Theory of Intelligence』の
ハードカバーの出版は、2021/3/2

今回取り上げる
『脳の地図を書き換える: 神経科学の冒険』の原著
『Livewired: The Inside Story of the Ever-Changing Brain』の
ハードカバーの出版は、2020/8/27

こちらのほうがちょっと前に出版されています。

「1000の脳」理論は、大脳新皮質の独立した
数千のミニコラムが、投票することにより、
1つの近くを生み出すという話でした。

今回とりあげるのは、
脳が常に作り変えられているという話です。

初めのほうで紹介されているエピソードは、
脳の半分がなくなると
どうなるかという例でした。

3歳の子供が、脳炎になり、
3年間症状に苦しんだあと、
脳の半分を切除する手術をします。

その手術後、排便も排尿も制御できず、
歩くことも話すこともできなくなりました。

が、理学療法と言語療法を毎日続けた結果、
3ヶ月で年齢相応の発達段階に達し、
右手と右足には苦労するものの、
傍目にはほぼわからず、
レストランで必要な仕事をほとんどこなしている、
ということでした。

脳って、本当にすごいんですね。

ということで、脳のすごさをこの本から学び
まだまだ自分の脳の地図を書き換えていきたいと思います。

メルマガで数回に分けてとりあげます。

あなたは、10年前の自分の脳の地図と、どんなところが書きかわっていると思いますか。

20220623 脳の地図を書き換える 神経科学の冒険_ライブワイヤード(1)vol.3448【最幸の人生の贈り方】

夢はなんのために見るのか

■なぜ夢を見るのか

神経科学の分野でいまだ解けない謎のひとつが、
なぜ脳は夢を見るのか、である。

地球は自転しているため、
平均一二時間サイクルで闇へと放り込まれる
(電気に恵まれた現代についてではない)。

すでに見てきたように、
どれかひとつの感覚が奪われると
隣接領域による乗っ取りの引き金が引かれる。

では、視覚系はこの不公平なハンデに
どう対処しているのだろうか。

答えは、夜間も後頭葉を活動させておくことによって、である。

視覚野が乗っ取られるのを阻むために
夢は存在する──それが私たちの仮説だ。

なんといっても、地球の自転は
触覚、聴覚、味覚、嗅覚にはいっさい響かず、
暗くて不利になるのは視覚だけである。

夜間のほとんどの時間には夢が現れないのだが、
レム(REM=「急速眼球運動」の略)睡眠の最中には
特別なことが起きる。

心拍数と呼吸数が上昇し、小筋肉が引きつり、
脳波は低振幅の速波となる。

眠りの中で夢が発生するのがこの段階だ。

レム睡眠を始動させるのは、
脳幹の一部をなす「橋」という構造内の
特定のニューロン群である。

このニューロン群の活動が高まると、
ふたつの結果がもたらされる。

ひとつは主要な筋肉群が麻痺すること。

筋肉の活動を停止しておけば、
脳は実際に体を動かさずとも疑似的に世界を経験できる。

もうひとつの結果はきわめて大きな意味をもっている。

ニューロンのスパイク波が
脳幹から後頭葉へと伝わるのだ。

スパイクが後頭葉に届くと、
その活動は視覚として経験されて私たちは見る。

夢が絵画や映画に似ていて、
抽象的でも概念でもないのはこのためである。

この一斉射撃のような活動が夜間に起きるときには
関係する脳構造が厳密に決まっている。

活動はかならず脳幹で始まり、ただ一か所に、
つまり後頭葉にのみ向かう。

生まれつき盲目の人(もしくは非常に幼くして視力をなくした人)は
夢で視覚的イメージを得ることはない代わりに、
ほかの感覚は間違いなく経験する。

盲目の人の後頭葉はほかの感覚の領土として
併合されているということである。

七歳よりあとで視力を失った人の場合は
それより早かった人より夢に視覚的要素が多く登場する。

夢を見ている最中、海馬と前頭前野という
ふたつの脳領域は覚醒時と比べて活動が少ない。

私たちがなかなか夢を思い出せないのは
そのせいではないかと考えられている。

■加齢とともにレム睡眠は減少する

未熟な状態で誕生する動物ほど
レム睡眠の時間が長く(最大で八倍)、
その現象は生後一か月のあいだがとくに顕著なのだ。

これは生まれ落ちた時点での脳の可塑性が
非常に高いために、色々なバランスをとるのに
絶えず戦わなくてはいけないからではないか。

私たちはそう解釈している。

もうひとつ指摘したいのは年齢とともに
レム睡眠の長さが減少することである。

ヒトの場合、乳児は睡眠時間の半分をレム睡眠に充て、
大人ではそれが一〇~二〇パーセント、
高齢者になるとその割合はなおさら小さい。

脳の地図を書き換える 神経科学の冒険

若年者と高齢者の睡眠の違いについて、
興味深いグラフを発見しました。

e-ヘルスネット:高齢者の睡眠
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html


第一の変化は、高齢者では若い頃にくらべて早寝早起きになることです。

第二の変化は、睡眠が浅くなることです。
睡眠脳波を調べてみると、
深いノンレム睡眠が減って

浅いノンレム睡眠が増えるようになります。

加齢にともなって、
深いノンレム睡眠とレム睡眠が減る一方、
浅いノンレム睡眠は変わりません。

とても興味深いですね。

ということは、浅いノンレム睡眠が、
生きるうえで不可欠だということですね。

深いノンレム睡眠のときに、
成長ホルモンが最も活発に分泌されるそうです。

もちろん、高齢者にとっても成長ホルモンは
新陳代謝のために必要ですが、
加齢とともに少なくなるのは、
理解できることです。

そして、レム睡眠は、脳回路の整理、記憶の定着に
使われるということになるのでしょうか。

深いノンレム睡眠ほど加齢による減少幅は
小さくないので、ある一定割合は必要だということですね。

そして、衝撃的なのは、
わずか四〇~六〇分目隠しをしただけでも、
脳の働きが変わるということです。

外部環境に脳は、即座に対応するということになります。

そして、元に戻るのも早い。

あなたは、睡眠の質をよくするために、どんな工夫をしていますか。

20220624 夢はなんのために見るのか_脳の地図を書き換える(2)vol.3449【最幸の人生の贈り方】

感覚と運動を拡張する

■感覚技能の追加

大脳皮質を汎用計算装置としてとらえると、
進化の過程で新しい感覚技能が
どのようにつけ足されてきたかが垣間見られる。

遺伝子変異によって一個の周辺機器が誕生すると
新しいデータの流れがどこかの脳領域に向かい、
神経情報処理機構が仕事に取りかかる。

つまり、新しい感覚技能を生み出すには
新しい感覚デバイスを開発しさえすればいい。

動物界全体を見渡したときに、
ありとあらゆる奇妙な周辺機器が見つかるのは
そのためだ。

そのひとつひとつは進化を通じて
数百万年かけて形づくられている。

こうした多種多様な周辺機器に対応させるために、
そのつど脳を設計し直さなくてはいけないのだろうか。

その必要はないと私は考えている。

大脳皮質がどこも同じに見えるのは
実際に同じだからである。

どの箇所も多能性をもっている。

つまり、どんな入力データが
プラグインされるかによって
多種多様な運命をたどる可能性がある。

聴覚に特化した脳領域が存在するとすれば、
周辺機器(この場合なら耳)からの情報ケーブルが
その場所に差し込まれているからにすぎない。

そこが聴覚野になる必然性があったわけではなく、
耳から伝わる信号がその領域の運命を
左右しただけだ。

脳は世界をできるだけ正確に反映するように
自らの回路を再編成する。

したがって、新しい有用なデータに触れる機会を
与えてやれば脳はそれを受け入れる。

これが起きるためには条件がふたつある。

ひとつはそのデータが使用者の目標と
結びついていること。

そうすれば脳は新しいデータを
一番効率的に学習できる。

もうひとつはそのデータが
使用者自身の行動とつながっていることだ。

■体を動かす

人が手足を一本失うと脳は自らを再編成する。

しかしそれは入力側の話にすぎない。

じつは出力側も同じで、
体の操作を担当する脳領域(運動野の地図)も
変化に応じて自らを調整する。

手足のどれかが存在しなくなって
コントロールできないことを神経系が察知すると、
そこに振り向けられていた皮質領域は縮小する。

脳は初めから特定の体を扱うように
定められているわけではない。

自らを適合させることで体を動かし、
外界と相互作用しながら見事に機能している。

■運動を拡張する

さらに素晴らしいのは、
新たに外づけの拡張機能が追加されたときにも
同じ学習方法でそれを使いこなせるようになることだ。

たとえば、自転車は私たちのゲノムが
おそらく予期していなかったものだろう。

脳の運動野はひとつしかないのに
何通りもの方法で体を操れるようになるなんて、
考えてみれば不思議な話である。

だが、ありがたいことに脳はじつに賢く
そのときの状況や背景を把握したうえで、
どのプログラムを走らせるかを判断している。

脳の地図を書き換える

引用には入れなかったのですが、
紹介されていたのは、
視覚障がい者、聴覚障がい者が
どのように世界を見たり聞いたりできるようになるか、
ということです。

最新の技術で、
視覚、聴覚の代わりに、皮膚の感覚で
とらえたりする、いくつもの方法で
実現されていました。

これらを使うと、
生まれながらに、目や耳がない人も
同じように脳を鍛えられるそうです。

また、白内障の人工レンズを入れた人で、
紫外線を感じるになった人もいるようです。

そして、同じように、私たちは運動機能を
拡張できるとのこと。

考えてみれば、普通にやっていることです。

自転車に乗れるようになったり、
泳げるようになったり、
自動車を運転したり、
楽器を演奏したり、
キーボードをブラインドタッチしたり、
スマホをフリック入力したり(私は得意じゃないけど)。

新しいものが出てくるたびに、
進化する必要はないわけです。

そして、この運動能力は、状況によって、
自動的に切り替わるという例として、
後ろの状況を確認するのに、
自動車の運転席に座っているときだけ、
バックミラーを無意識に見ると
著者が書いていました。

確かに、自動車の運転席と、
自転車の運転席と、
オフィスの座席では、
後ろを確認するのに、
意識しなくても別の動作で実現しています。

脳って、すごいですね。

あなたは、どんな感覚や運動機能が拡張されていると感じますか。

20220625 感覚と運動を拡張する_脳の地図を書き換える(3)vol.3450【最幸の人生の贈り方】

脳はいつ配線を書き換えるのか

■脳の配線を変える力

報酬は脳の配線を書き換えるほど強い力をもつが、
脳は幸いそのつどクッキーや現ナマを
必要とするわけではない。

もっと大ぐくりな言い方をするなら、
目標を達成するうえで大事なことは何であれ
変化に結びつく。

重要なことが起きたらそれに応じて
配線を変化させねばならないと、
脳はどうやって知るのだろうか。

ひとつの方法は、周囲に現れる複数の事象が
関連し合っているときにのみ
可塑性のスイッチを入れるというものだ。

自分にとって大事であるというこの現象を
脳内で表現するのが、
神経修飾物質による広域のシステムだ。

この化学物質をきわめて限定的に分泌すると、
全体に持続的な変化をもたらす代わりに
限られた特定領域で限られたときにのみ
変化を生じさせる。

■アセチルコリンと神経修飾系

とりわけ重要な物質がアセチルコリンである。

アセチルコリンを放出するニューロンは
報酬と罰の両方を原動力とする。

動物がひとつの課題を学習していて、
脳の回路を変化させる必要があるときには
これが活性化する。

脳の特定領域にアセチルコリンが存在すると、
それは脳に変われと命令するが、
どのように変わればいいかは伝えない。

つまり、コリン作動性ニューロン
(アセチルコリンを吐き出すニューロン)が活性化すると、
標的となる領域でただひたすら可塑性を高める。

そのニューロンが活動していなければ
可塑性はほとんどないしまったく発揮されない。

アセチルコリンが仕事をするあいだ、
別の(ドーパミンのような)神経修飾物質が
関与することで変化の方向が決まり、
罰と報酬のどちらが得られているのかが符号化される。

現在、世界中で研究者が取り組んでいるものの、
神経修飾系の複雑な動きについては
いまだ解明への道半ばだ。

■アルツハイマー病を発症しない人

アメリカでは脳の加齢とアルツハイマー病を研究するために
「修道女研究」が実施されていて、
数十年にわたって数百人のカトリック修道女を
追跡調査している。

近年、この研究からまったく予期せぬ結果が得られた。

何人かの修道女の脳を死後に解剖したら
アルツハイマー病にむしばまれていたのだが、
いずれも生前は認知機能にいささかの衰えも見られず、
頭の回転が抜群に速かった。

つまり、彼女たちの神経ネットワークは
物理的に変質していたにもかかわらず、
行動の遂行能力はそうではなかった。

鍵を握るのは、その修道女たちが
最後の最後まで頭を使わなければいけなかったことである。

相当な高齢になってもつねに頭を使っていれば
新しい接続が育まれる。

脳の地図を書き換える

「修道女研究」、気になりますね。

調べました。
http://www.yuki.or.jp/認知症の研究について/


「100歳の美しい脳」(David Snowdon著2004年)で紹介された
nun-studyという研究報告です。

アメリカの修道女(Nun)678名(75歳~102歳)を対象に、
毎年認知テストを行い、その経過を調べました。

さらに被検者が死亡後、解剖して
全員の脳の状態を記録しました。

すると、脳が委縮しアルツハイマー型認知症の状態であるのに、
まったく認知症の症状が出なかった人が8%いたそうです。

8%のひとたちには、ある共通点がありました。

そのうちのひとり、シスター・メアリーは
85歳まで数学教師を務め、
その後もボランティア活動を熱心に行い、
101歳で亡くなりました、

彼女は晩年まで認知機能は正常でしたが、
脳は870gまで委縮していました。

彼女のように、8%の人たちの共通点は、
毎日規則的で役割を持った生活をしており、
そのような生活が病変に打ち勝つことを示唆していたと

報告されています。

おお!!!

生涯現役が認知症を寄せ付けないことに
つながるようです。

これは、誰にとってもよいことではありませんか。

脳の神経回路を固定化して高速にするか、
遅いけれども柔軟性を残しておくか、
という判断は、システムを構築することと
とてもよく似ています。

定型化する作業は、システム構築したほうが
断然早く、失敗なく繰り返すことができます。

一方、定型化できない作業は、
システム化しないで、運用でカバーするほうが
断然楽です。

これらの判断を、脳内で常に行なっているのですから、
私たちの脳はすごいですね。

さらに、重要であると判断しないと
つまりいやいやながらやっていると、
いつまでも脳の回路がつくられないようです。

無理強いしても意味がないことになりますね。

ゲームの攻略方法は大人が教えなくても、
自分達でネットで調べられるのに、
学校の宿題については、
「習っていないから、わからない」
と言い放つ、子どもに呆れることはよくありますが、、、

まあ、大人も同じようなものですね。

あなたは、どんなことに興味をもって、時間をつかっていますか。

20220626 脳はいつ配線を書き換えるのか_脳の地図を書き換える(4)vol.3451【最幸の人生の贈り方】

記憶はどのように保存されるか

■ペースレイヤリング

何年か前、作家のスチュアート・ブランドは
新しい考え方を提唱し、
複数の階層が別々のペースで活動していることに
目を向けなければ文明は理解できないと説いた。

流行は次々に移り変わるのに対して、
一地域における事業はもっとゆっくり変化する。

道路や建物といったインフラは
さらに長い時間をかけて徐々に発展する。

社会の規則や法律──つまりいかに統治するか──は
なかなか改まらず、
それは変化の向かい風に飛ばされないように
物事をしっかり押さえつけておきたいからだ。

文化はといえば物語と伝統という
分厚い土台に支えられ、
のんびりと独自のタイムテーブルで変遷する。

一番長い時間軸で動いているのが自然であり、
数百年から数千年かけて重い足取りで進んでいる。

このすべての階層が互いに影響を及ぼし合っている。

比較的速く動く階層は革新が起きたことを
遅い階層に教え、
比較的遅く進行する階層は
抑制と体系を速い階層に与える。

一個の文明のもつ力と強靭さは
どれかひとつの階層から得られるものではなく、
それらすべての相互作用から生み出されている。

ブランドの唱えたこの考え方は「ペースレイヤリング」
〔「ペースに応じて階層化する」という意味〕
と呼ばれる。

■脳の「ペースレイヤリング」

ペースレイヤリングの原理は
脳について考える際にも使える。

最も速く動く階層は生化学的な連鎖反応で、
最も遅いのは遺伝子発現の変化である。

こうした複数の変化の流れが正しく連動すれば、
一過性の出来事が痕跡を残すことができる。

なぜなら、速く進む連鎖反応が
もっと遅い連鎖反応を始動させ、
それがやがてさらに緩慢なプロセスの引き金を引き、
最終的に最も深層にあるゆっくりした変化が
動きだすからだ。

ペースレイヤリングのモデルでは
遅いほうの階層が速い階層に枠組みを提供する。

このため、昔に経験したことが土台となり、
以後のあれこれはすべてその上に築かれていく。

新しい物事はことごとく古いフィルターを通して
理解される。

ペースレイヤリングを理解するうえで鍵を握るのは、
階層どうしの相互作用に目を向けることだ。

■異なる時間軸の記憶

世界に関する多種多様な事柄を覚えるためには
異なる時間軸がどうしても必要になる。

一般化したいときもあれば(「レモンは黄色い」)、
具体例を記憶しなければならないときもある
(「うちの冷蔵庫の野菜室に入っているレモンは腐っている」)。

両方の仕事をうまくこなすには、
学習速度の異なる別個のシステムをもたなくてはならない。

環境から一般法則を引き出すためのシステム(遅い学習)と、
エピソード記憶〔宣言的記憶の一種で、
個人が経験した出来事に関する記憶〕のための
システム(速い学習)である。

ひとつ考えられるのは、このふたつのシステムが
それぞれ大脳皮質と海馬だというものだ。

海馬は変化のスピードが速い
(だから短時間で事例から学習できる)のに対し、
皮質は時間をかけてゆっくりと一般法則を抽出する。

前者は速い変化を通して具体的な事柄を保持し、
後者は多数の事例を必要とするので
変化には時間を要する。

この巧妙な仕組みにより、
脳は個々の事例(「このボタンを押せば
レンタカーが走り出す」)から
すばやく学習できると同時に、
色々な経験を通して徐々に統計的パターン
(「花はたいてい春に咲く」)を
引き出すこともできる。

脳の地図を書き換える

記憶は一部に保存するところがあるのではなく、
全体で記憶しているようです。

これはコンピュータの仕組みと
かなり異なります。

記憶の種類と、脳内の責任領域をまとめておきます。

長期記憶
・顕在記憶
・・エピソード記憶 [宣言的記憶]【小脳・大脳基底核】
・潜在記憶
・・意味記憶 [宣言的記憶]【小脳・大脳基底核】
・・手続き記憶 [非宣言的記憶]【海馬・大脳皮質】
・・プライミング[非宣言的記憶]【海馬・大脳皮質】
・・古典的条件付け[非宣言的記憶]【海馬・大脳皮質】
・・非連合学習

短期記憶
・作業記憶【前頭連合野】

プライミング記憶というのは、前に入力された情報が、
そのあとの情報に影響を与えるような記憶で、
「入れ知恵記憶」とも呼ばれているものです。

非連合学習とは、一種類の刺激に関する学習であり、
同じ刺激の反復によって反応が慣れたり、
増強したりする現象です。

記憶といってもさまざまですね。

20220627 記憶はどのように保存されるか_脳の地図を書き換える(5)vol.3452【最幸の人生の贈り方】

この記事は、メルマガ記事から一部抜粋し、構成しています。

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