22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる
成田悠輔(著)
SBクリエイティブ (2022/7/5)
成田悠輔 なりた・ゆうすけ
夜はアメリカでイェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想株式会社代表。専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。混沌とした表現スタイルを求めて、報道・討論・バラエティ・お笑いなど多様なテレビ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員 などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。
「どんな小さなものでもいいから、
私たち一人ひとりが民主主義と選挙のビジョンや
グランドデザインを考え直していくことが大事なのだと思う。」
という著者の考え方には、深く同意します。
22世紀の民主主義
■選挙に行こう??
私たちには悪い癖がある。
今ある選挙や政治というゲームに
どう参加してどうプレイするか?そればかり考えがちだという癖だ。
だが、そう考えた時点で負けが決まっている。
「若者よ選挙に行こう」といった広告キャンペーンに
巻き込まれている時点で、
老人たちの手のひらの上で
ファイティングポーズを取らされているだけだ、
ということに気づかなければならない。■故障(民主主義の劣化)
「民主主義は最悪の政治形態である。
これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば」
このチャーチルの有名すぎる名言は今でも正しいだろうか?今日本や世界の民主国家はどんな持病を抱えているだろうか?
コロナ禍の20~21年にも、
民主国家ほどコロナで人が亡くなり、
経済の失墜も大きかった。08~09年のリーマンショックでも、
危機に陥った国はことごとく民主国家だった。「民主主義の失われた20年」とでも呼ぶべき様相である。
なぜ民主国家は失敗するのか?
ヒントはネットやSNSの浸透とともに進んだ
民主主義の「劣化」である。21世紀の現状を踏まえて
ソフトウェアアップデートした衆愚論と言ってもいい。世界の半分が民主主義を通じて
政治的税金・利息を金と命で払わされているかのようにも見える。超人的な速さと大きさで解決すべき課題が
降ってきては爆発する現在の世界では、
凡人の日常感覚(=世論)に忖度しなければならない
民主主義はズッコケるしかないのかもしれない。■民主主義との闘争
選挙やその周辺の仕組みをどう改造すればいいだろうか?
一人一票で本当にいいんだろうか?
選挙区は地域で決めていていいんだろうか?
経営者は業績で報酬が変わるのが当たり前なのに、
政治家の報酬は固定でいいんだろうか?これは民主主義という理念一般の問題というより、
代議者や政党にあらゆる政策・立法を委ねる
「一括間接代議民主主義」とでも言うべき
特定の選挙制度の問題だろう。とはいえ、選挙制度の改革の実現可能性は心許ない。
既存の選挙で勝って地位を築いた現職政治家が
こうした選挙制度改革を行いたくなるだろうか?無理そうなのは明らかだ。
真に必要なのは、選挙の再発明ではない。
むしろ「選挙で何かを決めなければならない」
という固定観念を忘れることだ。■民主主義からの逃走
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。
だが、逃げたくなるのが人情だ。民主主義から逃げ出してしまう方法はないだろうか?
タックス・ヘイブンへの資産隠しなど、
国家からの逃走は一部ではすでに日常である。21世紀後半、資産家たちは
海上・海底・上空・宇宙・メタバースなどに消え、
民主主義という失敗装置から解き放たれた
「成功者の成功者による成功者のための国家」を
作り上げてしまうかもしれない。選挙や民主主義は、情弱な貧者の国のみに残る。
だが、逃走はどこまでいっても逃走でしかない。
民主主義に絶望して選民たちの
楽園に逃げ出す資産家たちは、
民主主義に内在する問題を解決しはしないからだ。■まだ見ぬ民主主義の構想
問題から目を逸らして逃走するのではなく、
民主主義の理念をより純粋に体現する仕組みを作れないだろうか?選挙も政治家もない民主主義はありえないだろうか?
●無意識データ民主主義
選挙も政治家もない民主主義の構想として考えたいのが
「無意識データ民主主義」だ。インターネットや監視カメラが捉える
会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクション、
心拍数や安眠度合い……選挙に限らない無数のデータ源から
人々の自然で本音な意見や価値観、民意が染み出している。無数の民意データ源から意思決定を行うのは
アルゴリズムである。このアルゴリズムのデザインは、
人々の民意データに加え、
GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングといった
成果指標データを組み合わせた目的関数を
最適化するように作られる。無意識民主主義は大衆の民意による意思決定(選挙民主主義)、
少数のエリート選民による意思決定(知的専制主義)、
そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)の融合である。●社会のグランドデザイン
社会のビジョンやグランドデザインというと、
政治家と経営者が出てきて
大学生の期末レポートみたいなお話をするのがお決まりだ。だが、どうもしっくりこない。
それよりサザエさん、ちびまる子ちゃん、
闇金ウシジマくんのような作品の方が
よっぽど具体的で息の長い日本人の生活ビジョンを
与えている気がする。そういう作品を作ったのはそこらにいるただの市民である。
選挙も民主主義もそれと同じであってほしい。
どんな小さなものでもいいから、
22世紀の民主主義
私たち一人ひとりが民主主義と選挙のビジョンや
グランドデザインを考え直していくことが大事なのだと思う。
劣化した民主国家の現状については、
グラフを提示して、示しています。
コロナ禍初期の死者数についての
回帰直線については、
私は疑問に思いますが、
コロナ禍初期のGDP成長率については、
民主国家ほど低いというデータは
とても興味深いと思います。
とはいえ、独裁国家そのもののデータが少ないことと、
独裁国家の中でも中国のデータが
あまりに存在感があるので、
これで判断してよいのか、
強い確信はありません。
投票についての議論もとても興味深いです。
私は、常々、「一括間接代議民主主義」と著者が呼んでいる
さまざまな政策をある特定の代表者に託すという
選挙のありかたに疑問を感じているので、
100票を割り当てるという方式は、
これを打破するうえで、とても有効だと思いました。
しかし、具体策を考えたときに、
難しいかもしれないとも考えました。
例えば、
候補者Aの経済施策と
候補者Bの福祉政策と
候補者Cの環境・エネルギー政策に
同意するとして、
私が、Aに20票、Bに30票、Cに50票入れたとします。
しかし、候補者C自身の優先順位の中で、
環境・エネルギー政策が低かったら、
私の50票は、死に票になる可能性が高いです。
すると、イマイチの策かもしれません。
そして、既存の選挙で勝って地位を築いた現職政治家が
選挙制度改革にもっとも後ろ向きです。
根本的な改革は確かに難しそうです。
そして、Apple Watchに指導される日常も、
なんとなくイヤだなあ。
エスカレーターに乗ろうとしたら、
警告が発せされて、階段に誘導される。
こういうことを許可したら、
どんどん自分の判断が侵食されてしまいそうです。
著者は、政治家は、
人気投票で選ばれるネコと
何か問題があったときに叩かれるゴキブリで
よいのではないかと書いています。
だから、政治家はVtuberでもよいのだと。
うーーむ。
私は、別の本で、
将来の構想を描いているのを読みました。
地域内で、物々交換あるいは現金を介した
経済活動を行い、
話し合いで解決レベルのコミュニティを
形成すればよいという将来像です。
物々交換あるいは現金を扱っている限り、
経済活動をシステムでトラッキングされることは
ありません。
巨大IT会社からは、文字通り、
見えない存在になることができるので、
広告などの振り回されることがなくなります。
こっちのほうが人間らしい社会に
思えるのですが、どうなんでしょうか。
いずれにしろ、著者が最後に書いている、
「どんな小さなものでもいいから、
私たち一人ひとりが民主主義と選挙のビジョンや
グランドデザインを考え直していくことが大事なのだと思う。」
という考え方には、深く同意します。
あなたは、どんな意思決定がされる社会に住みたいですか。
20220828 22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになるvol.3514【最幸の人生の贈り方】