Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界

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Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界
Anthro-Vision: How Anthropology Can Explain Business and Life 

ジリアン・テット(著), 土方奈美(翻訳)
日本経済新聞出版 (2022/1/26)

ジリアン・テット Gillian Tett
FT米国版編集委員会委員長、米国版エディター・アット・ラージ。
ケンブリッジ大学にて博士号(社会人類学)取得。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)入社後、ソ連崩壊時の中央アジア諸国を取材。その後、東京支局長もつとめる。イギリスに戻り「Lexコラム」担当。金融ジャーナリストの最高の栄誉ウィンコット賞を受賞したほか、ブリティッシュ・ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー賞、コラムニスト・オブ・ザ・イヤー賞、ビジネス・ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー賞などを受賞。米国版編集長を経て現職。著書に『セイビング・ザ・サン』、『愚者の黄金』(フィナンシャル・ブック・オブ・ザ・イヤー賞受賞作)、『サイロ・エフェクト』がある。

土方 奈美 ひじかた・なみ
翻訳家。慶應義塾大学文学部卒業。日本経済新聞、日経ビジネスなどの記者を務めたのち、2008年に独立。2012年モントレー国際大学院にて修士号(翻訳)取得。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナー。訳書にリード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』、エリック・シュミット他『How Google Works』、ジョン・ドーア『Measure What Matters』など多数。

Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界

■鳥の目と虫の目

二一世紀の社会には、
大規模な統計データやビッグデータを使った
トップダウン型の分析をありがたがる風潮がある
(データセットの規模は大きければ大きいほどよい、とされる)。

このような高度な演算が重要な洞察を
もたらすことも多い。

しかし私はオビ・サフェド村での経験を通じて、
ときには鳥の目ではなく虫の目で世界を見て、
両方の視点を組み合わせることに価値があると知った。

徹底的に地域に密着し、
縦横斜めからある状況を立体的に探究し、
自由回答形式の質問を投げかけ、
人々が語っていない事柄に思いを巡らすことが
大きな恩恵をもたらす。

他者の世界を「身体化」し、
思いを共有することに意義がある。

Anthro Vision(アンソロ・ビジョン)

著者のジリアン・テットの前著は、
『サイロ・エフェクト』。

残念ながら、当時、私はこの本にめぐりあわなかったのですが、
ソニーの凋落についても、分析したものとして
評価されています。

さて、監視資本主義を長々と読んだので、
別の視点の本として、この本を選びました。

ビッグデータだけでは、
「なぜ」その行動をとっているか、
読み取ることはできないというのが
著者の主張です。

この本では、虫の目で世界を眺めると
どのように見えるのか、
学んでいきます。

あなたは、鳥の目の視点と、虫の目の視点をどのように取り入れていますか。

20220217 Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界(1)vol.3322【最幸の人生の贈り方】

キットカットがなぜ日本で売れたのか

■キットカット

ありふれた「キットカット」チョコレートに、
日本で何が起きたのか。

日本では、多くの母親たちがキットカットは
子供には甘すぎると考えたため、
売れ行きはパッとしなかった。

しかし二〇〇一年、日本でキットカットを
担当していたマーケティング部門の幹部が、
奇妙な現象に気づいた(ブランドはすでにネスレが買収していた)。

通常は安定しているキットカットの売り上げが、
九州では一二月、一月、二月に大きく伸びていたのだ。

原因は定かではなかった。

だが調査したところ、
九州のティーンエイジャーと大学生のあいだで、
キットカットが「きっと勝つとぉ(きっと勝つよ)」という
方言の響きに似ていると評判になっていることがわかった。

日本での販促では「ハブ・ア・ブレイク」のコピーを使わず、
サクラのイラストとともに
「キット、サクラサクよ」のフレーズを使うことを決めた。

ヴヴェイのネスレ本社の幹部が見れば、
ただのきれいなイラストかもしれない。

だがサクラは日本では合格の象徴でもある。

チームはさらに試験会場近くのホテルを説得し、
宿泊客に「きっとサクラは咲きます」と書いた
ハガキとともにキットカットを無料配布してもらった。

「スイスの本社には私たちの取り組みを
具体的には伝えていなかった。
かなりおかしなことをやっていると思われるのは
明らかだったからだ」

取り組みはうまくいった。

学生たちがキットカットを伝統的なお守りに代わる
新たな縁起物として使うようになり、
売り上げは急増した。

伝統的なお守りは、
神主が祈禱したうえで信者に販売する。

外国人から見れば、チョコレートはお守りというには
神聖さに欠けるように思える。

しかし日本人はかなりプラグマティックだ。

二〇〇三年にインターネットポータルサイトの
Gooが実施した消費者意識調査では、
学生の実に三四%がお守りとして
キットカットを使っていた。

神社のお守りの四五%に次ぐ、第二位だ。

二〇〇八年には日本の受験生の五〇%が、
お守りとしてキットカットを使っていると
回答するまでになった。

日本チームは箱入りキットカットを開発し、
受験生の家族らが幸運を祈るメッセージを
書き込めるようにした。

それから日本郵便と交渉し、
この赤い箱をそのまま封筒として使えるようにした。

二〇一四年にはキットカットは
日本で最も売れているチョコレート菓子となり、
日本文化に根差した「日本の」土産物として
空港で海外からの観光客向けに販売されるようになった。

Anthro Vision(アンソロ・ビジョン)

キットカットの日本のマーケティングが
とても秀逸ですね。

通常なら、チョコレート菓子として、
どう売るかという発想から
抜け出すことは、なかなか難しいです。

それをお守りにする、縁起物にする、
励ましのための郵送物にする、切符にする、
という発想は、すばらしいです。

今では、「きっと勝つ」=キットカットというイメージが
刷り込まれています。

これと同じことがインテルのマーケティングでも
ありましたね。

「インテル入っている」というメッセージが
とてもよかったので、
世界的なメッセージもIntel insideに変えたのです。

グローバル商品を現地の市場に浸透させるのは、
そんなに簡単ではないし、
現地で受け入れられたとしても、
同じ意味で製品が受け入れられているわけではない、
という事例は、とても興味深いです。

そして、お客さまになぜ買ってもらったのか、
自分はなぜそれを買ったのか、
は、販売者の意図と異なることは、
結構あると思います。

それをきちんと拾い上げたのが、
すばらしいことです。

あなたが広告のメッセージと違う理由で買った商品にはどんなものがありますか。

20220218 キットカットがなぜ日本で売れたのか_Anthro Vision(2)vol.3323【最幸の人生の贈り方】

AIのとらえかたの国による違い

■AIに対する不安の違いードイツとアメリカと中国

●ドイツ

たとえばドイツの消費者は、
高齢者を自宅で介護するために
AI装置を導入することには積極的だ。

ただ、それはAI装置が集めたデータを自宅内にとどめ、
外部とは共有しないという条件付きだった。

これは政府の厳しい監視があった過去の記憶が
国民にあるためだ、と研究者らは考えた。

●アメリカ

一方アメリカ人はAI装置が集めたデータを
自宅内にとどめるか外部と共有するかにはあまり関心がなく、
むしろコンピュータに対して
消費者が「主体性」を持ちうるのか、という点への不安が
大きかった。

●中国

中国人のほとんどがテクノロジー・イノベーションを
本質的に好ましいものととらえていた。

成長を加速し、世界の舞台での中国の力を
さらに強める要因と考えていたからだ。

中国では文化大革命のような出来事もあり、
人間の官僚に対する信頼感が非常に低い。

人間の代わりにコンピュータが
意思決定をするほうが良いと感じているふしもある。

ロボットは人間のように気まぐれかつ残酷に
ふるまう可能性が低く、
AIを使った顔認識プラットフォームは賄賂を要求しない。

Anthro Vision(アンソロ・ビジョン)

ドラえもんは、アジアを中心に
海外で人気のキャラクターで
海外でもまた、ロボットのイメージに
影響を与えている可能性があります。

はじめは違和感をもっていたとしても、
使っているうちに価値観が変わってくることも
あるでしょう。

アメリカに入国するときは、
顔写真と指紋の記録をとられます。

これだって、本当は嫌だけれど、
しかたないと諦めているうちに、
当たり前だという感覚になってしまうかも
しれません。

気まぐれで、賄賂を要求する人間よりも、
AIを使った顔認識プラットフォームのほうが
個人を尊重されるという中国人の見方は、
日本では生まれません。

どの考え方、ものの見方が正しいということではなく、
社会、個人の経験と学びによって、
変わってくるものです。

日本国内でも、地域の状況によって、
何が大切かは変わってきます。

同じ職場でも、家族でも、
違いがあります。

その違いをとらえたうえで、
技術に何を任せるか、任せないかの
共通の線引きを行うというのは
実は難しいことなのかもしれません。

あなたは、自宅にAIが入り込むことに、どんな不安がありますか。

20220219 AIのとらえかたの国による違い_Anthro Vision(3)vol.3324【最幸の人生の贈り方】

あなたにとって会議とはどういうものか

■会議とは

GMの社員自身には、自らの文化的特徴を
言語化するのは容易ではなかった。

彼らにとっては自分たちの働き方こそが
「自然」だったからだ。

だがブリオディは違いを理解するには
それぞれを比較し、儀礼や象徴を観察して
パターンや相違点を明らかにするのがいい、
という人類学者らしい判断を下した。

ブリオディは企業の「会議」に注目した。

通常、企業で働く人たちは
この言葉の意味をわざわざ考えたりしない。

しかしブリオディがデルタプロジェクトで参加した
不毛な会議の議事録を読み返してみると、
三つのグループがそれぞれ会議の
あるべきかたちについて異なる前提を
持っていたことがわかった。

■「会議=仕事」ではない

リュッセルハイムから来たオペルのチームにとって、
会議という儀式はあらかじめ明確に定めた議題に基づき、
簡潔に終わらせるべきものだった。

日々の業務の大部分は会議以外で行われるので、
会議の唯一の目的は具体的判断を下すことだった。

「会議=仕事」ではなかった。

それに加えてリュッセルハイムの人々は、
会議で意思決定を下すのは
リーダーの仕事だと考えていた。

少なくとも彼らの頭の中には、
ヒエラルキー型の権力構造が存在していた。

■「会議=仕事」である

一方、デトロイト地域からやってきた
小型車グループの技術者にとっては
「会議=仕事」だった。

業務時間の大半を会議に費やすのが
当然だと考えていた。

彼らにとっては会議こそが
アイデアを共有する場だった。

このためデトロイトの人々は
会議の議題はあらかじめ設定すべきではない
と考えていた。

情報交換のなかで、
自然と議論を発展させていくほうが望ましい。

しかもリュッセルハイムには
ヒエラルキー型のリーダー主導のシステムがあったのに対し、
デトロイトのチームは意思決定は「大多数の支持」、
すなわちほとんどのメンバーが
同意するか否かによって下すべきだと考えていた。

■会議とは合意の形成

テネシー州のグループには
また別の心理的および文化的パターンがあった。

リュッセルハイムのチームと同じように、
テネシーの技術者も業務の大部分は
会議室以外で行うものなので、
会議は短いほうがよいと考えていた。

ただリュッセルハイムのチームとは違い、
会議の目的は判断を下すことではなく
合意の形成であり、
あらかじめ議題を設定することは嫌がった。

しかもヒエラルキーに基づいて
リーダーが意思決定を下すという発想も嫌った。

Anthro Vision(アンソロ・ビジョン)

企業活動において、必ず行われる「会議」。

大きなプロジェクトでは、
種類と目的を明確にして、
会議体を定義するところから始めますが、
そんなことを決めないで、
会議を行うことも多いかと思います。

だからこそ、暗黙的な文化の前提が
会議に潜んでいるのですね。

・会議の議題を明確にすべきか、
・合意はどこまで必要か、
・決定は誰が下すべきか、

これらの問いに「明確にするのは当たり前」とか、
「合意がないなんて考えられない」とか、
考えるのであれば、
あなた自身が会議に対して、
暗黙の前提をもっていることになります。

これは、ふだん気がつかないことなのです。

自分にとって当たり前だから。

だから、他部門との会議や、
他の国との会議、他の会社との会議で、
すれ違いが起こることになります。

なぜなら、当たり前が違うから。

人類学の観点で、ものごとを眺めるのは、
とても興味深いですね。

あなたにとって、会議とはどういうものですか。

20220220 あなたにとって会議とはどういうものか_Anthro Vision(4)vol.3325【最幸の人生の贈り方】

西洋的思考と非西洋的思考

■「WEIRD」

こうした事実を目の当たりにした西洋人は、
非西洋文化を「おかしい」と批判するかもしれない。

だがヘンリックは「おかしい」のは
アメリカやヨーロッパ社会のほうだ、と主張する。

「人類史の大半を通じて、
人は濃厚な親族ネットワークのなかで生きてきた。
(中略)このような厳格な関係重視の世界における
生存、アイデンティティ、身の安全、結婚、成功は、
親族関係を中心とするネットワークの
健全性や繁栄にかかっていた」。

むしろ例外的なのは西洋社会のほうだ。

「西洋人はきわめて個人主義的かつ
自己中心的、管理志向が強く非協調的で分析的だ。

そして自分は固有の存在で、
人生を自らコントロールしているという感覚を
持ちたがる」

こうした特徴をヘンリックは
「西洋的(Western)、
教育水準が高い(Educated)、
個人主義的(Individualistic)、
金持ち(Rich)、
民主的(Democratic)」
の頭文字をとって「WEIRD」と名付けた
(weirdには「おかしな」という意味もある)。

消費者文化を理解するには、
こうした違いを理解することが重要だ。

Anthro Vision(アンソロ・ビジョン)

西洋文化でも、トールキンの『指輪物語』を読むと、
名乗りをあげるのは、必ず、
「〇〇の息子、XXXXX」
です。

祖父から始まるか、父から始まるかは別にして、
家族の関係が先にあります。

個人主義の考え方は、
昔からあったものではなく、
決して当たり前ではないのです。

どの書籍か、失念しましたが、
写真から何を読み取るかというところで、
日本人は、コンテクストから読み取る傾向にある、
とありました。

日本人は、「空気を読む」ことに
もともと長けているのです。

これは正しいとか、間違っているとかではなく、
日本社会で生き残るには、
重要な要素だったからです。

決して私たちは、いつでも合理的に、
そして倫理的に行動するとは限りません。

それは、合理的、倫理的の基準が、
一意的ではないし、
直感的な判断がそもそも合理的ではないからです。

そして、自分たちの組織や日本の価値基準が、
そのまま世界に当てはまることもありません。

いろいろなものの見方を知っておくことは、
うまくいかないと思い込んでいる時ほど、
大切かなと思います。

あなたは、絵や写真から、テーマを読み取るのが得意ですか。背景を読み取るのが得意ですか。

20220221 西洋的思考と非西洋的思考_Anthro Vision(5)vol.3326【最幸の人生の贈り方】

この記事は、メルマガ記事から一部抜粋し、構成しています。

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