量子コンピュータが本当にわかる! ― 第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性

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量子コンピュータが本当にわかる! ― 第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性
武田俊太郎(著)
技術評論社 (2020/2/13)

武田 俊太郎 たけだ・しゅんたろう 
1987年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科准教授。専門は量子光学・量子情報科学。日本における数少ない量子コンピュータの開発者。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、分子科学研究所での職を経て、2019年より現職。これまで光を用いた様々な量子技術の研究に関わっており、現在は独自方式の光量子コンピュータ開発に取り組んでいる。

この本は、量子力学の特徴の説明から始まり、
現代のコンピュータの違いも丁寧に書いてあり、
とてもわかりやすくまとまっていました。

現状についてよく理解することができました。
日本でもぜひがんばってほしいです!

量子コンピュータの計算

■現代のコンピュータと量子コンピュータの計算

現代のコンピュータの構成要素は、
「0」か「1」の情報を表すビットと、
ビットを変換するNOTやANDなどの論理演算です。

量子コンピュータでは「0と1の重ね合わせ」を
情報の単位に用います。

この情報単位を量子ビットと呼びます。

量子ビットの数が1個増えるごとに、
重ね合わせられるパターンの数が2倍になります。

少ない個数でも、膨大なパターンの情報を
重ね合わせて同時に持つことができるのが、
量子ビットの驚くべき能力なのです。

量子ビットは、ただ「0」と「1」の情報が
重ね合わさって同時に存在するという事実だけが
重要なのではなく、
その2つの「重ね合わせ具合」によって
情報を表現しているというのが重要なポイントです。

量子コンピュータとは、
単に情報を重ね合わせて並列に計算する
という類のものではなく、
たくさんの波を操って「重ね合わせ具合」を
うまくコントロールしながら計算を行う、
「波を使った計算装置」なのです。

■量子コンピュータの制約

量子コンピュータの計算は、
最後に計算結果を読み出すときに制約があります。

最後に計算結果を読み出すには、
量子ビットがどのような情報を持つか、
測って調べる必要があります。

しかし、量子ビットには、
測定すると重ね合わせが壊れて
「0」か「1」のどちらか一方に決まってしまう
という性質があります。

このとき、測定前にどのような情報が
どのような具合で重ね合わさっていたかという情報は
消えてなくなってしまうのです。

量子コンピュータは大量のパターンの情報を
並列に処理できるという強みがある一方で、
最後に計算結果として取り出せる情報は
1パターンだけという厳しい制約があるのです。

■量子版演算回路

●1入力1出力の量子論理演算

量子版NOTは「0」と「1」の波を入れ変えて、
元と異なる重ね合わせ具合の量子ビットを
作り出す演算です。

「0と1の重ね合わせ」に対して、
「1」の波の振動のタイミングだけをずらす
演算があります。(位相シフト)

「0」と「1」の波をそれぞれ足したり引いたりして
新しい波のペアを合成する演算があります。
(量子干渉)

3種類の量子論理演算を組合せれば、
1個の量子ビットの重ね合わせ具合を
自由自在に変換できることが知られています。

●2入力の量子論理演算

量子版XORは、2入力・2出力の演算です。

出力1には入力1の量子ビットが
そのまま出てきます。

一方、出力2には、
入力1と入力2が同じときは「0」を、
違うときは「1」が出力され、
これは通常のXORと同じです。

量子コンピュータでは、
ここまで紹介した1個の量子ビットの演算と
2個の量子ビットの演算があれば、
どのような計算も実現できることが
わかっています。

●入力と出力の個数は同じ

通常のビットの論理演算と
量子ビットの量子論理を比較した場合に、
入力や出力の個数が異なります。

例えばXORは2入力1出力なのに対し、
量子版XORは2入力2出力です。

ANDは2入力1出力なのに対して
量子版ANDは3入力3出力です。

これは量子コンピュータの計算が
「出力から入力へ逆向きにさかのぼれる」ことと
関係しています。

●消費電力を小さくできる

現代のスマホやノートパソコンなどは、
ずっと使用していると熱くなりますよね?

実は、熱くなる1つの理由は、
論理演算のたびに情報が失われるからなのです。

物理学では、
「情報を失うとき、必ず熱が発生する」
という法則(ランダウアーの原理)が知られています。

これに対して、量子コンピュータは、
情報を失わず、逆向きにさかのぼることのできる
コンピュータになっています。

量子版の論理演算では、情報を失わないために、
入力や出力の数が増え、
かつ入力と出力が同じ個数になっていることが
わかるでしょう。

このような逆向きにさかのぼれるコンピュータは、
原理的には熱の発生を限りなく
ゼロに近づけることができ、
消費電力を小さくできます。

量子コンピュータが本当にわかる!

量子コンピュータの説明としては、
スピンの方向がそれぞれあってなどという図で
説明しているのを見たことがありますが、
いまいちピンとこなかったのです。

この本は、量子力学の特徴の説明から始まり、
現代のコンピュータの違いも丁寧に書いてあり、
とてもわかりやすくまとまっていました。

量子力学は、日常目にする世界の力学とは、
まったく異なった性質をもっています。

粒子であり、波であり、
存在は確率で表されるものの、
観察すると、1か0に決まる。

なんのこっちゃと思いますよね。

しかし、これを演算にもちいると、
ある特定の演算は、演算回数を減らすことができ、
その結果、高速に計算できるようになる
というのが、量子コンピュータだそうです。

また、計算の途中で、情報が失われないので、
熱の発生を防ぐことができ、
消費電力を小さくできることも
できるようです。
(この原理は初めて知りました)

どの計算も得意ということではなく、
現在も何が得意か、応用分野を探しているとのこと。

これについては、量子コンピュータが実用化すれば
あっという間に広がることでしょう。

しかしながら、現在は、実用化に程遠い状態。

実用レベルには、100万から1億個以上の量子ビットが
必要なのに対して、現在は、 50 個程度の量子ビットを
搭載したコンピュータが開発されているとのことです。

最新情報を調べてみると
Googleは、2019年に54個
100万量子ビットを2029年実現目標。

IBMは、2019年に27量子ビット。
2023年に1000量子ビット、
その後100万子ビットを目指すとのこと。

現在のトランジスタの微小化が
限界に近づいているので、
新しい技術が楽しみですね。

あなたは、量子コンピュータにどんな期待をもちますか。

20220718 量子コンピュータが本当にわかる!_量子コンピュータの計算(1)vol.3473【最幸の人生の贈り方】

量子コンピュータの方式と課題

■量子コンピュータの実現が難しい理由

量子コンピュータの実現が難しい理由の1つは、
量子がとてもデリケートな存在だからです。

量子の性質を保つには、
とにかくその量子の周りから邪魔者を全て排除し、
量子を大切に守ってあげる必要があるのです。

邪魔者とは、原子や分子だけではありません。

宙を飛んできた光がその量子に当たって
邪魔をする場合もあります。

量子コンピュータの実現の難しさのもう1つは、
量子一つひとつを限りなく正確に操る必要が
あることです。

量子ビットは情報の性質が異なるため、
そもそもノイズや誤差が少しも許されない仕組みに
なっています。

トランジスタのように電気信号を
ONかOFFの2択に変換して
ノイズや誤差をリセットするようなことが
できません。

量子ビットの演算が99%の精度でできたとしましょう。

しかし、演算を100回連続して行うと
正しい答えが出る確率は
99%×99%×99%×…=37%しかありません。

■エラー訂正

現代のコンピュータは、
万一計算の途中でミスをしても、
計算ミスを自分で見つけて訂正するような
「エラー訂正」の仕組みを備えています。

エラー訂正の基本的な考え方は、
「たくさんのビットを使って
1個分のビットの情報を表す」ということです。

例えば、3つのビットを使って、
「000」なら「0」の情報を、
「111」なら「1」の情報を表すことにします。

量子コンピュータでも、
信頼できる計算結果を出すためには、
同じようなエラー訂正の仕組みが必要です。

しかし、量子ビットの情報を訂正するのは、
簡単なことではありません。

1990年代になって、量子コンピュータでも
エラー訂正をする方法が見つかりました。

■量子コンピュータの代表的な方式

●量子コンピュータ方式1: 超伝導回路方式

現在、研究開発が最も進んでいて、
かつ世界で最もメジャーなのが、
超伝導回路を使った量子コンピュータです。

超伝導という状態になった金属の中では、
電子は全く邪魔されることなく、
スイスイと自由自在に動き回れます。

この結果、電子の量子としての性質が壊れにくくなり、
量子コンピュータに利用できるようになるのです。

超伝導量子コンピュータの本体は、
電気回路のチップです。

回路をうまく設計した上で
チップを冷やして超伝導状態にすると、
回路の中に何かしらの重ね合わせ状態を作り出せます。

たとえば、2枚の電極が向かい合った構造を作り、
電子がそのどちら側の電極にいるかで
「0」と「1」を表すことにすれば、
その構造1個で「0と1の重ね合わせ」の
量子ビットを表せます。

この電気回路のチップは、
超伝導状態にして安定に保つため、
マイナス273°Cまで冷やします。

この方式では、チップの上に多数の量子ビットを
自由に配置して集積化できますし、
電気信号で量子ビットを比較的簡単に
操作できるのも利点です。

一方で、超伝導回路は他の方式に比べれば
量子ビットが不安定で、
重ね合わせを安定に保てる時間がまだ短いです。

●量子コンピュータ方式2: イオン方式

超伝導回路方式よりも古い歴史を持ち、
現在超伝導回路方式と肩を並べる規模の
量子コンピュータができているのが、
イオンを使った方式です。

イオン方式は、超伝導回路方式に比べても、
量子の性質を長い時間安定して保つことができ、
演算の精度も高いという強みがあります。

イオン方式の量子コンピュータでは、
そういったイオン1個1個を量子ビットに使います。

イオンの中心には陽子・中性子があり、
その周りに電子がぐるぐる回るための軌道が
いくつかあります。

1個の電子に注目し、
それがある2つの軌道のどちらにいるかで
「0」と「1」を表すことにすれば、
イオン1個で「0と1の重ね合わせ」の
量子ビット1個を表せます。

イオン1個で量子ビットの情報を表したとしても、
そこに邪魔な原子や分子がぶつかると、
情報は壊れてしまいます。

このため、まず余計な原子や分子のいない真空の容器を作り、
その中に使いたいイオンだけを閉じ込めます。

さらに、イオンは容器の壁に衝突してもいけません。

そこで、イオンが何とも接触しないように、
宙に浮かせます。

イオンの量子ビットを操作するには、
イオン1個1個にレーザー光線を狙い撃ちして、
イオンの中の電子を操ります。

最後に計算結果を読み出すためには、
イオンに読み出し専用の別のレーザー光線を当てます。

イオン方式の量子コンピュータのメリットは、
非常に精度よく演算ができることです。

超伝導回路の量子ビットは人間が作り出したものなので、
製造誤差によって個々の量子ビットごとに
性質が微妙に異なってしまいます。

しかし、自然界に存在するイオンは、
言うなれば神様が作り出したものです。

製造誤差なんてものはありません。

イオン方式の演算精度は
現在では数ある方式の中でナンバーワンで、
99・9%以上の精度が達成されています。

一方で、この方式の課題は
1つの真空容器の中に捕まえて操れるイオンの数が
数十個程度で限界ということです。

このため、単純に量子ビットの数を
増やしていくことができません。

●量子コンピュータ方式3: 半導体方式

半導体方式の量子ビットのサイズは、
超伝導回路方式のものよりもはるかに小さく、
現代のトランジスタに匹敵するレベルです。

近年有力視されているのは、
半導体中の1か所に電子を閉じ込めて
量子ビットとして用いる方式です。

電子1個で量子ビット1個が表せます。

周囲の金属電極に電気信号を送れば
磁石の向きを操作して量子ビットの演算を実行したり、
磁石の向きを調べて量子ビットが
「0」か「1」か読み出したりすることができます。

現在はまだ1~2量子ビットを操作する実験が
行われている段階で、
技術的にはまだまだこれからといったところでしょう。

演算のエラー率も
超伝導回路方式やイオン方式と比べれば
劣っています。

●量子コンピュータ方式4: 光方式

光子は、他の量子と比べて「変わり者」の量子です。

光子は、私たちが日常過ごすような環境でも
壊れにくいので、低温に冷やすための冷凍機や
真空の容器は不要で、圧倒的に扱いやすいです。

また、光は現在でも光ファイバを使った
インターネット通信に利用されている通り、
情報をやりとりするのに向いています。

さらに、光は高速データ通信に
使われていることからわかる通り、
情報を早く処理するのに向いています。

光は空間を振動しながら進む波です。

この波の振動の向きが縦ならば「0」、
横ならば「1」とすれば、光子1個で
量子ビットが表現できることになります。

光子の量子ビットは、
超伝導回路・イオン・半導体の量子ビットと違って、
一か所にとどめておくことができず、
常に光の速さで進んできます。

光の量子コンピュータが苦手なことの1つは、
2個の量子ビットの間の演算(量子版XORなど)です。

光子と光子は空中でぶつかっても
お互いを無視して素通りしてしまうくらい
個人プレー志向で、連携プレーが苦手なのです。

光方式の他の問題としては、
光子が様々な部品の中を進む途中で、
何かに吸収されたり、
あらぬ方向に飛んで行ったりして、
量子ビットが消えてなくなってしまうエラーが
あることです。

量子コンピュータが本当にわかる!

とても興味深いですね。

それぞれの開発方式には、
まだまだ解決しなければならない課題が
多く残っていることを理解しました。

時に、ブレイクスルーが起こることもあるので、
将来はまだわかりません。

IBMの量子コンピュータは、
無償で試すこともできますし、
クラウドサービスの従量課金で利用することも
できるそうです。

量子コンピューティング | IBM
IBM Quantumは量子コンピューティングの分野で世界をリードし、複雑な問題を解決することを目指しています。

5月に発表された開発ロードマップが掲載されていました。

2022年は、433量子ビットのプロセッサーを開発し、
2023年以降は、量子ビットを増やすとともに、
並列化もすすめていくようです。

さらに量子ソフトウェアアプリケーションの開発も
始めていくということで、
技術的にはとても楽しみな分野です。

Googleの開発ロードマップも探してみました。

現在の課題は、エラー訂正機能をもつ物理量子ビットの開発で、
2029までに100万量子ビットを開発するという
構想のようです。

そして、いまさら気づいたのですが、
Google CEOは、インド出身のインド系アメリカ人。
IBM CEOも、インド出身のインド系アメリカ人です。
調べてみるとマイクロソフトCEOも、
インド出身のインド系アメリカ人です。

中国系は、自国に戻って起業することが多く、
インド系は、自国に戻らず、現地で活躍することが多い
と聞いていましたが、
ビッグテックのトップは、いまやインド系が多いのですね。

あなたは、量子コンピュータが実現したとき、どんな未来が広がっていると予想しますか。

20220719 量子コンピュータの方式と課題_量子コンピュータが本当にわかる!(2)vol.3474【最幸の人生の贈り方】

この記事は、メルマガ記事から一部抜粋し、構成しています。

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