時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙
UNTIL THE END OF TIME Mind, Matter and Our Search for Meaning in an Evolving
ブライアン・グリーン(著), 青木 薫(翻訳)
講談社 (2021/12/3)
ブライアン・グリーン Brian Greene
理論物理学者。ハーバード大学を卒業後、オックスフォード 大学で博士号取得。現在はコロンビア大学物理学・数学教授。超弦理論や宇宙論の分野で数々の業績 をあげ研究者として第一線で活躍するかたわら、科学の普及のための活動にも力を注ぐ。超弦理論を 解説した一般向けの著作である『エレガントな宇宙』は各国で翻訳され、全世界で累計100万部を超 えるベストセラーとなった。続く『宇宙を織りなすもの』『隠れていた宇宙』も全米ベストセラーと なる。科学番組の司会も務め、ワールド・サイエンス・フェスティバルの共同創設者でもある。妻と 子供とともにニューヨーク在住。
青木 薫 あおき かおる
1956年山形県生まれ。翻訳家。京都大学理学部卒業、同大学大学院修了。 理学博士。2007年度日本数学会出版賞受賞。訳書にサイモン・シン『フェルマーの最終定理』、マン ジット・クマール『量子革命』(以上、新潮社)、ブライアン・グリーン『宇宙を織りなすもの』 (草思社)、スティーヴン・ホーキング『ビッグ・クエスチョン』(NHK出版)、ジェームス・D・ ワトソン他『DNA』(講談社)など。著書に『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』(講談社現代新 書)が
時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙
■エントロピック・ツーステップ
熱を排出して蒸気機関から環境に
エントロピーを移行させるというプロセスは、
今から宇宙の進展を追跡するなかで出会う、
まったく普遍的なプロセスの一バージョンにすぎない。その普遍的なプロセスのことを、
本書では「エントロピック・ツーステップ」と
呼ぶことにしよう。それは、系がエントロピーの減少分を
補ってあまりあるエントロピーを
環境に移行させることにより、
その系自身のエントロピーは減少するような
あらゆるプロセスである。エントロピック・ツーステップは、
ある領域でエントロピーが減少したとしても、
別の領域では確実にエントロピーを増大させ、
最終的には、熱力学第二法則から予想される通り、
全体としてのエントロピーを増大させるのである。エントロピック・ツーステップは、
時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙
無秩序に向かって突き進む宇宙が、
恒星や惑星や人間のような秩序ある構造を
いかにして生じさせるのか、
いかにしてそれらの構造を支えるのかという
問いへの答えの核心に位置している
カルロ・ロヴェッリの『時間は存在しない』も
とてもおもしろい本でした。
『時間の終わりまで』は、
同じ熱力学第二法則をとりあげながら、
宇宙の始まりから、物質、生命、心まで踏み込む
ビッグヒストリーの要素ももっています。
物理学者がどこまで語れるのか、
どのように世界を眺めているのか、
大変興味深いです。
死があることを理解しているのは、人間だけ。
人間の一生が、宇宙の時間に比べたら、
一瞬ではかないことを理解しているのは、人間だけ。
では、私たちができることとは何なのか?
あなたは、宇宙において、どのような存在だと考えますか。
20211229 時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙(1)vol.3272【最幸の人生の贈り方】
ビッグバンと恒星の誕生
■恒星形成プロセスのエントロピーの収支
恒星形成のプロセスで
エントロピーの収支がどうなるかを知るために、
エントロピーの増減にかかわる要素を
洗い出してみよう。中心部では、温度が上がることでエントロピーは増大し、
体積が減ることでエントロピーは減少する。エントロピーの増大分より減少分のほうが大きく、
ガス雲の中心部では、
正味のエントロピーは減少することがわかる。重力の働きによって
恒星のような大きな塊が形成されることは、
たしかに秩序を高める動きなのだ。一方、周辺部では、
体積が増えることでエントロピーは増大し、
温度が下がることでエントロピーは減少する。増大分のほうが減少分よりも大きいことがわかり、
ガス雲の周辺部では、
正味のエントロピーは増大することがわかる。この計算により、周辺部のエントロピーの増大分は
中心部でのエントロピーの減少分よりも大きく、
それゆえガス雲の全体としての
エントロピーは増大するとわかることだ。熱力学第二法則は、たしかに成り立っているのである。
エントロピック・ツーステップの重力バージョンには、
そのダンスが自己持続的だという新たな特徴がある。ガス雲が収縮して熱を放出するにつれて温度が上がり、
時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙
ますます多くの熱を外向きに放出するようになり、
ツーステップを持続させる。
ビッグバンの始まる前の、低エントロピー状態が
なぜ生じたかは、まだ説明できないものの、
確率としてゼロではない、
ということで、ひとまず置いておき、、、
重力というのは、引力だけでなく、
斥力もある条件で発生するというところから
始まります。
そして、ビッグバンの始まりは、
この斥力的重力のおかげで、
一気に爆発したことになります。
そして、さまざま粒子が誕生し、
粒子で満たされた一様な空間が生まれます。
しかし、そこにはゆらぎがあるために、
重力の力で、徐々に密度の濃淡が大きくなっていきます。
その重力は、どんどん粒子を集め、
ガス雲をつくり、中心部に温度の高い粒子を集め、
やがて、核融合を始めます。
これが恒星です。
この間、常に、エントロピーは増大しています。
というのも、ガス雲の周辺では、
つねに粒子が拡散しているからです。
エントロピーは常に増大しているのに、
なぜ、秩序のある構造が存在しているのか。
私には長いこと疑問になっていたことの一つが
ここで解消しました。
あなたは、宇宙の始まりについて、どのような疑問をもっていますか。
20211230 ビッグバンと恒星の誕生_時間の終わりまで(2)vol.3273【最幸の人生の贈り方】
水なくして生命はない
水は、自然界でもっとも身近で、
もっとも重要な物質のひとつだ。酸素と水素のこの結合には、
重大な帰結を持つ幾何学的特徴がある。原子間に働く斥力と引力のために、
あらゆる水分子は広がったV字形になる。分子の頂点にある酸素のあたりは
負の電荷を帯びるのに対し、
V字のふたつの先端にある水素のあたりは
正の電荷を帯びる。分極しているおかげで、
水はたいていのものを溶かし込むことができる。水分子の両端は、
時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙
十分に長く水に浸っているものは
ほとんど何でも引き裂いてしまう、
帯電したカギ爪のような働きをするのだ。
著書では、恒星の誕生のあと、
元素の合成、太陽と地球の誕生について
ふれているのですが、
割愛したので、簡単にまとめます。
私は太陽は、第2世代の恒星だと思っていたのですが、
そうではなくて、第1世代の恒星の孫、
第3世代の恒星のようです。
そして、太陽が生まれた場所は、
まだよくわかっていないけれど、
その候補の1つが3000光年離れた、
メシエ67だそうです。
地球誕生から5000万年から1億年ほど経った頃に、
テイアという火星ほどのサイズの惑星に衝突され、
月ができました。
地球の地軸が傾いているのは、
この衝突が原因だと考えられています。
地球形成の数億年後には、
大気に含まれていた蒸気が雨となって地表に降り注ぎ、
海洋を生じさせ、温度が下がりました。
さて、水は、私たちにとって、とても身近な物質ですが、
分子内で、分極していることで、
さまざまな水溶液をつくることができるので、
生命を維持することができるとのこと。
私はこういう観点で、水を眺めたことがなかったので、
改めて水の重要性に気づきました。
あなたは、毎日、水をどのように摂っていますか。
20220102 水なくして生命はない_時間の終わりまで(3)vol.3276【最幸の人生の贈り方】
生命とエントロピー
エントロピック・ツーステップのために、
私のエントロピーは
熱力学第二法則に反しているかに見えるが、
環境は私の味方になって、
私の分までエントロピーを増大させてくれた。細胞機能に動力を与える
燃焼、貯蔵、エネルギー放出のプロセスは、
蒸気機関に動力を与えるプロセスよりも複雑だが、
エントロピーの観点からすれば、
本質的な物理的プロセスはまったく同じなのだ。植物のエネルギーサイクルは、
エントロピック・ツーステップの、
また別の一例である。太陽から
やってきた光子が植物に吸収されると、
光子は植物の中の電子を
より高いエネルギー状態に蹴り上げ、
細胞内の機械装置はそれを利用して
(電子にエネルギーの階段を下りさせる
一連の酸化還元反応を介して、
エネルギーを取り出して利用する)、
さまざまな細胞機能に動力を与える。つまり太陽からやって来た光子は、
時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙
植物にとって低エントロピーで高品質の栄養であり、
植物はそれを吸収して
生命活動のプロセスに利用したのちに、
品質の下がった高エントロピーの廃棄物として
環境中に放出しているのである
(太陽から飛んできて植物に吸収された光子一個につき、
地球は、秩序が失われてエネルギーとしての
質の劣化した散在する赤外線の光子を、
数十個ほど宇宙空間に放出している)。
ミトコンドリアの働きは、とても複雑です。
ヒトにおいては、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの
代謝の活発な細胞には特に多くのミトコンドリアが存在し、
細胞質の約40パーセントを占めているとのこと。
全身の平均では、1細胞中に300個から400個の
ミトコンドリアが存在し、全身で体重の約1割を
占めていると概算されています。
すごい数ですね。
これらが秩序だって、動くので、
当然ながら、生きている限り、
体内はエントロピーの低い状態が続きますが、
代わりに、環境のエントロピーを拡大しているため、
結果として、エントロピー増大の法則は
守られていることになります。
光合成もまたしかり。
太陽から届く光子は、
低エントロピーで高品質であり、
植物の活動により、エントロピーが大きい廃棄物へ
変換されます。
生物は秩序のある構成物であるものの、
その活動は一貫して、エントロピーを増大していると
いう見方は、とても興味深いです。
そして、生物が死ねば、その構造は、
エントロピー増大の法則に則り、
エントロピーの高い状態に崩壊します。
非常におもしろいプロセスですね。
あなたは、生命がつくりだすどんな秩序に感動しますか。
20220103 生命とエントロピー_時間の終わりまで(4)vol.3277【最幸の人生の贈り方】
自分自身の意味
DNAの塩基配列はほとんど無限にありうるが、
そんな配列のどれかを持ちながら、
現実には生まれていない、
ほとんど無限の多くの人たちからなる集団を考えよう。あるいは、ビッグバンからあなたの誕生まで、
さらにそれから今日までに起こった
ほとんど無限に多くの出来事のひとつひとつが
分岐点となって、ほとんど無限に増殖する
宇宙の歴史の集合を考えてもいいだろう。それらの宇宙はすべて、
実現していてもよかったが、
そこにあなたや私は存在していないだろう。われわれが今ここに存在する確率は、
信じられないほど低い。そんなありえない偶然が、
現にこうして起こっていることは、
ゾクゾクするほどすごいことなのだ。冷え切った不毛な宇宙に向かって突き進んでいけば、
時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙
「大いなるデザイン[神の計画]」などというものは
ないのだと認めざるをえなくなる。
意識、心、芸術、宗教といった広範囲のテーマと
エントロピーは、どこでつながるのだろうと
読んでいるうちに、
ブラックホール、宇宙の終焉という話題になり、
そこには、インフレーション宇宙論だけでなく、
サイクリック宇宙論や、マルチバースという宇宙論も
紹介されました。
そして、最後に、私たちの生命から考えると無限に思える時間、
あるいは、遺伝子の組み合わせからだけでも想像できる
無限の存在の可能性がある中で、
自分が今ここにあるというありえない偶然に
戻ってきました。
最終的には、内面に向かう旅にたどりつきました。
時間的にも空間的に大きなスケールの宇宙を研究している
物理学者が最終的にたどりついたのが、
心に響く物語のふるさとを訪ねる旅だというのが
とても印象的でした。
それにしても、途中引用されるエピソードが
とても広範で、ベートーヴェンの第九が
初めて演奏されたときのエピソード、
そして、ヘレン・ケラーが第九を初めて聴いたときの
エピソードなどをはじめとして、
ドストエフスキー、プルーストなどの
文豪の小説からの引用を含めて、
読み物としても大変おもしろい本でした。
あなたは、一年後に地球が崩壊するとしたら、この一年にどんなことをしますか。
20220104 自分自身の意味_時間の終わりまで(5)vol.3278【最幸の人生の贈り方】