植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち

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植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち
What a Plant Knows

ダニエル・チャモヴィッツ(著), 矢野真千子(翻訳)
河出書房新社 (2013/4/17)

ダニエル・チャモヴィッツ Daniel Chamovitz
遺伝学者。米国コロンビア大学卒業後、ヘブライ大学で博士号取得。テルアヴィヴ大学教授、同大学マンナ植物バイオ科学センター所長。イェール大学とシアトルのハッチンソン癌研究所の客員研究員、世界各地の大学で講師を歴任。イスラエル在住。

矢野真千子 やの・まちこ
翻訳家。『イチョウ 奇跡の2億年史』、『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』、『感染地図』、『ES細胞の最前線』、『アートで見る医学の歴史』、 『迷惑な進化』、『大腸菌』、『遺伝子医療革命』など。

地球が十分大きいときには、
動物はよりよい環境を求めて、
移動すればいいけれど、
十分大きくないときには、
その環境に適応するしかありません。

となると、私たちは植物からもっと学ぶことが
あるのではないでしょうか。

生存するための植物の感覚機構

■植物はあなたを見ている

ダーウィン父子はクサヨシの苗の実験の結果を
一八八〇年に発表し、
屈光性が生じるのは、
植物の苗の先端部が光を見て、
その情報を中央部に伝えて曲げさせるためだと結論づけた。

二人は植物の視覚にあたるものを
示してみせたのである。

この現象は光周性と呼ばれる。

■光受容体

私たちヒトは、明暗を知るロドプシンと、
赤、青、緑の光を受けとるフォトプシンという
四種類の光受容体をもっている。

ヒトにはもう一つ、クリプトクロムという光受容体があり、
これが体内時計を調節している。

シロイヌナズナには少なくとも11の光受容体の存在が
確認されている。

あるものは発芽のタイミングを知らせ、
あるものは光の方向へ屈曲するタイミングを知らせる。

開花時期を知らせるものもあれば、
いつ夜になったかを知らせるもの、
光をたくさん浴びていることを知らせるもの、
光が薄れていることを知らせるもの、
時間を測るものもある。

したがって、植物の視覚はヒトの視覚より
ずっと複雑だということになる。

■葉は盗み聞きするのか

一九八三年、二組の研究チームが
植物のコミュニケーションに関する驚くべき発表をした。

彼らの発見は、あらゆる植物──ヤナギからライマメまで──
に対する私たちの理解を大きく変えることになった。

木々が、葉を食べる昆虫の襲来について互いに警告し合っている、
というのだ。

二〇〇九年、ハイルは韓国の研究仲間と共同して、
化学メッセンジャーを特定しようと
被害を受けた葉から放出される
さまざまな揮散性物質を分析した。

細菌にやられた葉はサリチル酸メチルを出していたが、
虫に食われた葉は出していない。

反対に、虫に食われた葉は
ジャスモン酸メチルを出していた。

植物にとってサリチル酸は免疫機構を増強する
「防御ホルモン」だ。

植物はそこまで知っている

地球が十分大きいときには、
動物はよりよい環境を求めて、
移動すればいいけれど、
十分大きくないときには、
その環境に適応するしかありません。

となると、植物からもっと学ぶことが
あるのではないかと、気になり始め、
気がつくと植物の本を3冊選んでいました。

この『植物はそこまで知っている』がその1冊目。

光というのは、植物にとっては、
食べ物にも当たるものなので、
光についての感覚は、動物よりも重要です。

だから、植物には、さまざまな光受容体が
あるようです。

とてもおもしろいのは、
「赤色光は開花をオンにし、
遠赤色光はオフにする」
ということです。

夜、花はとじますが、
これは、遠赤色光によるものだったのですね。

太陽が沈むとき、最後に感じるのは、
赤色光であり、そのあとに遠赤色光です。

私たちは、遠赤色光を見ることはできないけれど、
植物は見ているようです。

植物のコミュニケーションもとても興味深いです。

エチレンガスが果実を熟すことは、
よく知られていて、
保存するために、緑の袋を使っていましたが、
最近買った冷蔵庫には、
野菜室の一部に、エチレンガスが吸着できるように
なっていて、買った時に驚きました。

そして、何よりも驚いたのは、
虫に食われた葉っぱたちの動きです。

1枚の葉が食われると、
その株や樹に匂いを出して警告し、
その警告をまわりの別の木も嗅ぎとって
自分を守る。

そして、感染症か、虫に食われたかでは、
別の物質を放出する。

感染症にかかった葉は、
サリチル酸メチルを放出し、
それを吸い込んだ健康な葉は、
サリチル酸に変えて、病気と闘うのに使われる。

サリチル酸はヤナギの樹皮に多く含まれていて、
古来、ヤナギの樹皮は鎮痛や解熱の効果が
あることから薬にされていた。

ここで、植物と人間がつながりますね。

ヤナギだけでなく、どんな植物も
サリチル酸は産生しているとのこと。

サリチル酸は、消炎鎮痛作用のほかに
皮膚の角質軟化作用があり、
イボコロリやウオノメコロリ、洗顔料に
使われています。

一方、そのまま服用すると、
消化器障害の副作用が発生しやすいので、
いまは、アスピリンに置き換えられています。

日本でも、「歯痛には柳楊枝」と知られていたようで、
単純に、歯につまったものを取り出すというよりは、
痛みを止めるものとして、
使われていたのかもしれません。

あなたは、植物が光や匂いを感じているかを、どのように見てとりますか。

20220813 植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち(1)vol.3499【最幸の人生の贈り方】

植物は憶えている

■植物は接触を感じている

植物はさわられたことを知っている。

いつさわられたかを知っているだけでなく、
触れたものが熱いか冷たいかまで区別でき、
風に枝が揺れたときもそれがわかる。

植物には、じかに接触したことを感じる力がある。

つる植物は、巻きつくことのできるフェンスに
触れたとたんに急生長を開始する。

ハエトリグサは葉の上に昆虫がやってくると、
葉を閉じて捕食する。

そうそう、植物は過度に触れられることを
好まないようだ。

あなたがさわったり揺らしたりするだけで、
その植物は生長を止めてしまうことがある。

一九七〇年代初期に、
オハイオ大学を拠点にしていた
植物生理学者のマーク・ジャッフェは、
接触が引き起こす生長阻害を
植物生物学全般に見られる現象だと認めた。

そして「接触形態形成」という言葉を
つくり出した。

■植物は聞いている

ゲノムを配列決定する最初の植物として、
一九九〇年に米国立科学財団がシロイヌナズナを
選んだのは、この植物が、
進化の気まぐれのおかげで
ほかの植物よりDNAの数が少なかったからだ。

シロイヌナズナとヒトのゲノム配列決定により、
驚くようなことがたくさん見つかった。

中でも興味深いのは、
ヒトの病気や障害にかかわることで
知られている遺伝子数個が、
シロイヌナズナのゲノムにも見つかったことだ。

いっぽう、植物の生長にかかわる遺伝子数個が
ヒトのゲノムにも見つかった。

ヒトの聴覚にかかわり、なおかつ
シロイヌナズナにも存在する遺伝子のうち四つは、
ミオシンという蛋白質をつくるための遺伝子だ。

ヒトは内耳の毛を正しく機能させるために
ミオシンを必要とする。

それは、究極的には「聞く」ためだ。

植物は根毛を正しく機能させるために
ミオシンを必要とする。

それは、土壌から水分と栄養素を吸うためだ。

■植物は位置を感じている

固有感覚とは、私たちが体を動かしたときに
体の各部位が互いにどんな位置関係にあるのかを、
いちいち見て確かめなくてもわかるという感覚だ。

固有感覚には大きく二つのはたらきがある。

じっとしているとき(静止時)に
体の各部位の相対的な位置を知ることと、
動いているとき(動作時)に
体の各部位の相対的な位置を知ることだ。

固有感覚は平衡感覚だけでなく、
連携された動作をするのにも欠かせない。

ダーウィン父子は、重力を感じるのは根の先端だが、
根を曲げる部位はもう少し上のほうだということを示した。

根の先端は即座に重力を感知して、
どちらの方向に生長すべきかの情報を全身に送っている、
と二人は結論づけた。

植物では根の側と地上部分で重力を検知する組織が
二種類あるということだ。

根の側では根の先端部、茎では内皮だ。

ダーウィンは、どんな植物も
らせん状に振れながら動くことを見出し、
それを回旋転頭運動と名づけた。

このらせんパターンは種によって違いがあり、
単純な円形を描くものもあれば、
長円形や、スピログラフのように
重なりながら少しずつずれていく軌道の形を
くり返すものまである。

■植物は憶えている

ソ連の農民は、俗にいう「冬コムギ」を育てていた。

秋に播種して気温が零下になる前に発芽させ、
冬のあいだは休眠させて
春になって土があたたまってから
花を咲かせるという栽培方法である。

冬コムギは冬の寒さを一定期間経験しないと開花せず、
その後に穀物を実らせることができない。

一九二〇年代後半、ソ連農業は大打撃をこうむった。

異常な暖冬が続いて冬コムギの苗が
ほとんどだめになってしまったからだ。

ルイセンコは農業と人々を救うため
日夜研究に明け暮れ、
ついに暖冬のあと凶作にならずにすむ方法を見出した。

冬コムギの種子を冷凍してから播種すれば、
実際に長い冬を経験させなくても
発芽と開花を促せることがわかったのだ。

彼は農民にこの方法でコムギを春にまくよう指導し、
国の食糧問題を解決した。

ルイセンコはこの方法を「春化」と名づけた。

多くの植物が、収穫のために冬の低温を頼っている。

たとえば果樹の多くは越冬してからでないと
花を咲かせて実をつけない。

レタスやシロイヌナズナの種子は
急な寒さが来たあとでないと発芽しない。

コムギの苗やサクラの木が
なぜ冬を憶えているのかについて、
説明らしい説明ができるようになったのは、
ここ一〇年ほどのことである。

種子を冷やすという春化処理は、
FLC遺伝子の周囲にあるヒストンの構造を変え(メチル化という)、
クロマチンをきつく縛る。

するとFLCはオフになり、開花オーケーとなる。

毎年一回花が咲くオークの木やツツジなどの多年生植物では、
FLC遺伝子は再活性化する必要がある。

一度花を咲かせてからつぎの冬を越すまでは、
季節外れの花を咲かせないよう
抑えておかなければならないからだ。

そのためには細胞がヒストンの構造を元に戻し、
きつく縛られていたクロマチンをほどいて
FLC遺伝子をオンにしてやらなければならない。

これがどのようにして起こるのか、
またどのように調整しているのかについては、
目下、研究が進行中である。

植物はそこまで知っている

ダーウィンというのは、
さまざまな実験も行っているのですね。

すぐれた観察眼が実験によって養われたことが
よくわかります。

今回の引用しませんでしたが、
10時間と45分かけて、
キャベツの苗の先端がどのように動いたか
トレースした図が紹介されていました。

 
ちなみにダーウィンの名言はよく引用されますが、
実際には言わなかったこともよく引用されています。

例えば、こちらの言葉。

「生き残るのは、種の中で最も強い者でも、
最も知的な者でもない。
変化に最も適応したものが生き残るのである。」

以前、ブログ記事にまとめています。

ダーウィンが言わなかった6つのこと
ケンブリッジ大学のウェブサイト Darwinプロジェクトで、「ダーウィンが言わなかった6つのこと」がまとめられています。 ダーウィンが言わなかった6つのこと 生き残るのは、種の中で最も強い者でも、最も知的な者でもない。変化に最も適応したもの...

雑草を見ていると、つる植物は、
自分で体を支えなくていいので、
ものすごい早さで伸びていきます。

そして、どこに絡みつけばよいのか、
ツルの先を大きく動かして探り当てます。

これは、生長戦略として、
かなり賢い方法の一つだと考えています。

一方、地上にいる私たちには、見えませんが、
地下茎を伸ばしていく植物もありますね。

タケやハスなど、土の中で、
どんどん生育領域を広げていきます。

これらもどうやって位置を把握しているのか、
興味深いところです。

そして、とても勉強になったのは、
植物は触ると生長をとめてしまう場合が
あるということです。

これで思い出したのが、
イネの苗がひょろひょろ伸びてしまったときに、
手で撫でることで、苗をしっかりさせるという
技術です。

こういうことは、よく知られていて、
逆に利用されていたのですね。

私もプランターの野菜や花を
なるべく触らないように気をつけたいと思います。

あなたは、どのように季節をとらえていますか。

20220814 植物は憶えている_植物はそこまで知っている(2)vol.3500【最幸の人生の贈り方】

この記事は、メルマガ記事から一部抜粋し、構成しています。

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