インテグラル心理学とは
「インテグラル心理学」(Integral Psychology:統合的心理学)は、人間の心や意識というものが驚くほど多面的であり、多層的であり、ダイナミックであり、豊かな潜在的可能性を宿しているという前提をもとに、組み立てられているものです。そして、こうした全体的な地図を提示することによって、人間の心や意識にそなわっているできるだけ多くの側面に対して、正当な「居場所を与えよう」とするものです。
「発達」および「四象限」(「内」と「外」)という見方を中核に据えることで、人間の心や意識に関するさまざまな見方を、単なる折衷主義ではない有機的で立体的な織物へとまとめ上げています。
●発達
インテグラル心理学(そしてインテグラル理論)では、発達とは、子どもから大人になるまでの発達だけではなく、大人になってからも起こり得るものであると考えられています。
ただし、そこで主に強調されているのは、年齢や社会的境遇の変化(例えば就職や結婚)にともなう心理社会的な発達というよりはむしろ、意識そのものの構造的な発達です。
●「内」と「外」、「四象限」
加えて、インテグラル心理学では、心や意識を捉えるときにも、「内」と「外」の両方の視点が重要であることが一貫して強調されています。この場合、「外」すなわち「外面」とは、例えば私たちの行動であり、脳や身体であり、社会制度であり、科学やテクノロジーです。こうしたどの要素もまた、私たちの「内」すなわち「内面」と、互いに絡み合い、互いに作用し合い、一緒になって展開しているのです。
ホロン
ホロン〔全体/部分〕とは、それ自身がひとつの全体であると同時に、他の全体にとっての部分であるものを指す。例えば、原子という全体は分子という全体にとっての部分であり、分子という全体は細胞という全体にとっての部分であり、細胞という全体は有機体〔例えば動物や植物〕にとっての部分である。
各ホロンはさらに大きなホロンの中に包み込まれているので、これらのホロンは、入れ子状の階層構造──すなわち、ホラーキー(holarchy)〔ホロン(holon)+階層(hierarchy)〕──をなすことになる。
存在の大いなる入れ子を構成するそれぞれの段階とは、ホロンなのである。私はこうした内容を表現するために、段階(level)、構造(structure)、波(wave)という3つの言葉を互換的に用いている。
段階という言葉によって強調されるのは、それぞれの段階は、質的に異なる組織化のレベルにあるということである。各段階は、入れ子状の階層構造(すなわちホロン階層)をなしており、次第に包容力を増大させていく。
構造という言葉によって強調されるのは、それぞれの段階は、存在と意識に関する全体論的なパターンであり、後の段階においても残り続けるということである。
波という言葉によって強調されるのは、それぞれの段階は、明確に分離したものでもなければ孤立したものでもなく、ちょうど虹の色のように、互いの段階の中へと限りなく浸透し合っているものだということである。
スピリットは、完全に超越的であると同時に、完全に内在的なのである。
ヒエラルキーとヘテラルキー
基本となる構造ないし段階は、階層構造(hierarchy:ヒエラルキー)(全体性が次第に増大していく)と並列構造(heterarchy:ヘテラルキー)(互いに対等な要素が非階層的に相互作用する)の両方から構成されている。
段階間の関係は階層的である。後ろの段階は、前の段階を超えて含んでいるが、その逆は成り立たない(分子は原子を含んでいるが、その逆は成り立たない。細胞は分子を含んでいるが、その逆は成り立たない。文章は単語を含んでいるが、その逆は成り立たない)。そして、この「逆は真ではない」という性質こそが、非対称的な階層構造をつくりあげているのであり、そこでは、全体性が次第に増大していくのである(後ろの領域は前の領域を包含しているが、その逆は成り立たない。それゆえ、後ろの領域は前の領域よりも全体的であり、包括的である)。
他方、段階内においては、ほとんどの要素は互いに対等であり、その相互作用のパターンは双方向的である。発達のほとんど──少なくともその半分──は、さまざまな種類の非階層的で並列的なプロセスを通して進行し、そこでは、さまざまな能力が相互に結びついたり、さまざまな状況に適用されたりする。もちろん、こうした非階層的なプロセスは、巻末の図表には示されていない。なぜなら、これらの図表は、垂直的な発達に焦点を当てたものだからである。だが、こうした非階層的な側面の重要性は、忘れ去られるべきではない。それゆえ、私がホラーキーという言葉を用いるとき、そこには、ヒエラルキー(質的に順位づけされる諸段階)とヘテラルキー(相互に結びついた諸領域)の両方を調和させるという意味が含まれている。
ウィルバーの理論モデル
発達とは
大いなる入れ子を構成する基本的な諸段階とは、あくまでも一般的な段階であり、こうした一般的な段階の中を、無数の異なる領域──例えば感情のライン、欲求のライン、自己感覚のライン、道徳のライン、精神性/霊性のラインなど──が展開していくのである。この時、それぞれの発達領域は自らの速度で、自らの方法で、自らの力学に従って発達していく。
それゆえ、全体としての発達は、いかなる意味でも、直線的なものではなく、順序立ったものでもなく、梯子を登るようなものでもない。そうではなく、発達とは、基本的な波〔段階〕の中を、多くの流れ〔ライン〕が流動的に展開していくことなのである。
基本となる構造の機能グループ
(1)感覚運動的(sensorimotor)
(2)空想的‐情動的(phantasmic-emotional)(あるいは情動的‐性的)
(3)表象的(representational)な心(前操作的な思考に近い)
(4)規則/役割(rule/role)の心(具体操作的な思考に近い)
(5)形式的‐内省的(formal-reflexive)(形式操作的な思考に近い)
(6)ヴィジョン・ロジック(vision logic)
(7)心霊(psychic)
(8)微細(subtle)
(9)元因(causal)
(10)非二元(nondual)
四象限
図の上半分は、個に関する領域であり、下半分は、共同的ないし集合的な領域を表している。図の左半分は、内面(主観、意識)の領域であり、右半分は、外面(客観、物質)の領域である。
左上象限に表されているのは、個の内面である。これは、主観としての意識、個としての意識にかかわる領域である。左上象限の言語は、「私」(I)の言語である。意識の中に生じている内なる流れを、一人称的な言語で語るのである。また、美の領域でもある。
右上象限に表されているのは、こうした内面的意識に対応する客観的ないし外面的な事柄である。右上象限の言語は、「それ」(It)の言語である。個体に関する科学的な事実を、三人称的すなわち客観的な言葉で語るのである。
左下象限に表されているのは、集団の内面である。この領域に含まれるのは、個からなる何らかの集団において共有されている価値や意味や世界観や倫理である。左下象限の言語は、「私たち」(We)の言語である。相互理解、公正さ、善などが問題になる。文化の領域でもある。
あらゆる文化的要素もまた、外的で物質的で制度的な形態によって支えられている。こうした社会的システムに含まれるものは、具体的な制度や施設、地政学的な構造、生産様式などが挙げられる。これらは客観的な事柄でもあるので、右下象限の言語は、右上証言と同じ「それ」(It, Its)の言語である。
フラットランド(flatland)とは、単に、右側象限の世界のみが現実であるという見方のことを指している。